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高松塚古墳の壁画近くにカビが

 新聞などで報道され、御存知の方も多いだろうが、奈良県明日香村にある高松塚古墳の壁画近くにカビが見つかったため、文化庁は、保存方法を検討するため専門家の手を借りることにしたという。
国宝に指定されている高松塚古墳
 以前にもカビは見つかっていたが、白カビや青カビでアルコールなどでふき取った。が、今回見つかったのは、取り除きにくい黒カビだという。絵が描かれた部分には被害は及んでいないとも記事に書いてあった。
 この古墳が見つかり有名になったのは、72年で、小生が大学生になった頃に当たる。小生が日本の古代史とか考古学(但し、エジプトなど海外の考古学には子供の頃から興味があった)に関心を持ち出したきっかけの一つになったものだ。
 ところで、以前、「中国古代の四神(朱雀(すざく)、玄武(げんぶ)、青竜(せいりゅう)、白虎(びゃっこ))が、国内で初めてそろって確認された奈良県明日香村のキトラ古墳」でも、高松塚同様、壁面に「人物群像も描かれていたが、石室内部が浸水したことで消されてしまった可能性が高いことが(略)分かった」と報じられたことがある。
 当然、修理ということになり、「キトラ古墳保存修理費に1億4000万円」という記事も散見される。
 さて、憂えるのは、数多くの古墳、特に天皇陵である。
 その内部がどうなっているのか、秘密のベールの向こうにあって、実態は分からない。かなり限定的な形で折々一部の研究者に公開されることもあるようだが、学術的に徹底して調査・
研究されたわけではない。まして、その調査に基づいてきちんとした保存に動いたという話も聞かない。
 そもそも、天皇陵と指定された古墳は多いが、被葬されている人物と天皇陵の名称とが一致していると確認されたのは、ほんの僅かしかない。あとの大半は、明治の初め頃に慌しくどの墓がどの天皇だと決定されたままで、正しいかどうか不明なのだ。
 天皇陵は、国民の財産である。その大切な宝を風雨と歳月の経過による劣化に任せていていいのか。
 仮に、万が一、天皇陵に比定されている陵墓が管理されているとしても(恐らく違うだろう。天皇陵に深く分け入って調査・研究もしていないのに、本格的な保存などできるはずもない)、では、「陵墓参考地」はどうなるのか。
 「陵墓参考地」とは、「天皇の墓ではないかと見られる」古墳のこと。もしかしたら、本当はそれら「陵墓参考地」にこそ、本当の天皇陵があるのではないかと、内心は宮内庁でさえ思っている陵墓のことだ。
 それが全国に二百あるといわれる。
 本当に天皇の財産であり、国家の財産である(国民の財産である)というなら、キチンと、現行の天皇陵も「陵墓参考地」も含めて調査・研究・修復・保存に動くのが筋なのではないか。
 これは憶測だが、宮内庁は天皇陵を徹底して研究されるのを恐れているのではないか、つまり、研究されることで天皇家の出自が明らかになるのを恐れているのではないか。
 無論、憶測である。邪推である。根拠などない。研究されたことがない以上、憶測の域を出ない。が、その代わり調査されない以上、否定もできない。
 こんな憶測をされないためにも、キチンとした調査研究保存が大切なのだと思う。
 時代は変わったのだ。一昨年、現天皇が、日韓共催のワールドカップに絡んで、「私自身としては、桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると続日本紀に記されていることに、韓国とのゆかりを感じています」と語ったことは小生にも衝撃的だった。少なくとも日本では(天皇家と朝鮮との関わりを表立って語ることは暗黙の)タブーだったからだ。
 その年の夏、小泉首相が靖国参拝をしたこともあり、韓国の人々の感情を害し、現天皇による韓国訪問が実現しなくなったこと、韓国における日本への悪感情を和らげる意図があってのものだったろうか。
 云うまでもないが、天皇の発言を読むと、天皇家の出自を語っているのではない。「私自身としては、桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると続日本紀に記されていることに韓国とのゆかりを感じています」と述べられているだけだ。
 所謂、「ゆかり発言」である。
[桓武天皇の生母である高野新笠(タカノニイガサ)や、「ゆかり発言」につい
ては、このサイトを参照]
 いずれにしても、もっと日本人の視野を広げるためにも、そして大切な遺跡の現状を知り、保存し後世に伝えるためにも、天皇陵及び陵墓参考地の調査・研究・保存に動いて欲しいものだ。



                               (03/03/14)



[ 小生には、「天皇陵の学術的研究・保存を」というエッセイがあります。
 尚、「高松塚古墳」の現状については、例えば、「高松塚の反省避けた文化庁」という「asahi.com MYTOWN 奈良」の記事を参照のこと。
 こうしたニュース記事は早々に消滅する恐れがあるので、一部を転記しておく:

 キトラ古墳の壁画を全面的にはぎ取る方針を決めた14日の同古墳保存活用等調査研究委員会(座長=藤本強・国学院大教授)を傍聴した。約2時間の論議の中で、委員の主張と文化庁の答えがかみ合わない場面があった。カビ対策をめぐってである。

  高松塚古墳の極彩色の壁画が退色したり、消えかかったりしている原因は、カビ対策で用いた薬剤が原因ではないかと疑われている。キトラ古墳でもカビが生え、薬剤で殺菌している。

  猪熊兼勝委員(京都橘女子大教授、考古学)は「高松塚と同じ薬剤だ。高松塚では何が問題だったのか、明らかにしてほしい」と迫った。文化庁は薬剤について「使用は必要最小限にとどめている」と答えたが、高松塚の問題点に対する答弁はなかった。

  ここはキトラ古墳の対策を決める委員会で、高松塚については別に委員会がある、というのが文化庁の態度だった。猪熊委員は「高松塚の反省をキトラに生かすのは当然」と食い下がったが、かみ合わなかった。最後は、別の委員が「高松塚の原因究明ができていない。だから参考にできないということでしょう」と皮肉を言って、この問題の論議は終わった。

  高松塚の最重要問題はカビ対策、キトラの最重要問題は壁画の崩落を防ぐことで、確かにこの日の議論のテーマは、崩落を防ぐ手だてがない中で、はぎ取りを認めるか否かだった。だが猪熊委員が言うように、高松塚のカビ対策の反省はキトラにとっても重要で、中間的な報告なりとも知りたかった。高松塚とキトラは、時代も壁画の内容や技法も、すべてにわたり「兄弟」なのだから。

  「はぎ取りはやむを得ないが、絵のない部分から始めるなど慎重に」と主張していた猪熊委員は、最後は積極的に賛成した。「高松塚と同じカビ対策をするなら、一刻も早く壁画を外へ出した方がよい」と。高松塚のカビ問題が、キトラのはぎ取り慎重派を積極派に変える、皮肉な結果となった。   
(沖真治)
(転記終わり)                          (050219 up時追記) ]

[関連する情報なので、ここに可能な限り転記しておく。「10天皇陵の指定に疑問 50年代まで宮内庁が調査」といったニュースが5月8日の朝刊各紙(といっても、小生が目にしたのは読売と朝日だけだが)の一面に踊っていた(連休中ということもあり、ネタ枯れだったからだろうか)。その詳細を「asahi.com: 10天皇陵の指定に疑問 50年代まで宮内庁が調査-社会」から転記しておく:

 歴代天皇や皇族の陵墓などを宮内庁(旧宮内省)が戦前から戦後の50年代まで調査し、10カ所の天皇陵については指定の妥当性に疑問を持っていたことが、田園調布学園大短期大学部の外池昇・助教授(近世史)の研究で明らかになった。天皇陵は研究者から指定の間違いを指摘する声が数多くあがっているが、宮内庁も同様の認識を持っていたことを示すものだ。

 外池氏は情報公開法に基づき、関係資料を閲覧した。宮内大臣の諮問機関として35~44年に活動した「臨時陵墓調査委員会」の資料は、継体天皇陵への疑問を提起していた。大阪府茨木市の太田茶臼山古墳が指定されているが、近くの今城塚古墳の可能性があると答申している。

 戦後のものでは、陵墓の可能性はあるが被葬者不明の古墳「陵墓参考地」を調査した資料を閲覧。50年代後半までに計48の古墳を調査した結果で、9古墳について、応神、反正、雄略などの天皇陵である可能性があるなどの記載があった。

 天皇陵は初代の神武以来すべて指定された古墳が存在しており、既存の天皇陵が間違っている可能性を認めたものだ。

 天皇陵は国学思想が盛り上がった幕末や、「万世一系」をうたう大日本帝国憲法の制定期に探し出されたものが多い。しかし、古い時代のものは学術的な裏付けに乏しく、正確なものはごく少数とされている。研究者からは学術調査を望む声があがっているが、宮内庁は修理などを除いて手を加えていない。

 外池氏は「戦前であっても天皇陵を学術的に調査していたことがわかった。戦後も天皇陵に真剣に立ち向かおうとしており、現在の宮内庁の姿勢とは大きく違う。きちんとした学術調査をするべきだ」と話している。
                       (転記終わり)
天皇陵の学術的研究・保存を」でも主張したことだが、改めて天皇陵の学術的研究・保存を、陵墓参考地も含めて行って欲しいと願う。これは国民の財産なのであり、秘密のベールで守る(といいつつ、実際は風雪に朽ち果てていくに任せている)だけでいいはずがないと思う。 (05/05/09 追記)]
by at923ky | 2005-02-19 11:45 | コラムエッセイ


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