過日、ラジオを聞いていたら家事を男性がもっと受け持つべきかということで議論されていた(TBSラジオのアクセスとかいう番組)。
残念ながら、小生はその番組のお終い部分を聞きかじっただけで、どんな議論が交わされたのか、よくは分からない。 ただ、いずれにしても、少なくとも日本においては、男性が家庭において家事を受け持つ度合いが低いことは、統計上、歴然としているようだ。欧米などと比べるのは、文化の問題とか斟酌すべきだろうし、一概に多い少ないを論じても、不毛な議論になりかねない。 それでも、日本において夫婦共稼ぎの家庭であっても男性が家庭において家事を分担する割合も、家事に費やす時間も欧米に比して少ないという現実は、はっきりある。 それは、文化の問題なのだろうか。伝統に根ざしたものなのだろうか。それとも、歴史の中で作り出されたものなのか、という点は、多少考えてもいいように思う。 日本は、江戸時代などは封建的な時代だったという。身分制度も厳然としてあったわけだし、男尊女卑の風もあったようでもある。 しかし、江戸時代の武士階級は家督が長子に譲られるわけだし、そのため女性は子供を産むための存在、つまりは血筋を保つための道具、あるいは大名家同士の政略上の道具にされてしまった面がある。平安の昔を顧みるまでもなく、女性には名前すら判然としないことが多い。 が、では、一般庶民の間ではどうだったかというと、男だろうと女だろうと子供だろうと、労働力の一端を担うのは当然とされ、従って女性も一定程度の力や役割を有していたと考えていいようだ。 鎌倉時代であってさえも、しかもその時代の武士に限っても、女性は実際、絶大な権限を有していたようだ。 というより、武士の妻は、子どもの養育・家の財産管理・従者の管理指揮など家の中のこといっさいを取り仕切っていたのではなかったか。別にテレビの大河ドラマを見るまでもなく、武士の妻たる女性は御台所とか呼ばれて、奥向きの一切を分掌していたわけだ。 一般庶民は押して知るべきであろう。 それが変貌したのは、江戸時代ということになるのだろうか。 しかし、江戸時代でも、武士階級では、かなり女性の表向きの地位は貶められたが、庶民や町人などの間では、女性がいなくて一家が成り立つはずもなく、特に、初期の江戸などは、圧倒的に男性が数の上で多かったため、逆に女性が優位に立ち、制度上は低くても実権ということになると、案外、女性は力を有していたのではないか。 さて、事情が急激に一変するのは、なんといっても明治時代である。むしろ、それ以前の歴史など吹き飛んでしまいそうなほど、変貌を遂げたと見るべきだ。 「明治の民法では戸主に権限を集中させ、男系長子相続、夫の姓を名乗ること、夫と同居する義務、財産行為における妻の無能力、子の親権は父のみに認めることが盛り込ま」れたのである。 つまり「日本史上で初めて、女性の財産権は否定され、夫婦同姓などの家的観念が法律化」されたわけである。 さらに、1890年に教育勅語によって国家としての教育方針が示された。この教育勅語によって、江戸の頃まで出さえ庶民の間に厳然としてあった女性の力が殺ぎ落とされたわけである。それは、中央集権国家体制、そして富国強兵という国家方針と見合うものだった。 実に、ここに今にも残る男性は外で仕事(戦争)、女性は家に篭って子作りと家事と上からの強制で断固、役割を分割されてしまったわけである。 教育勅語には「父母に孝」などとあるが、民法に見るように、財産権を含め権限の一切が男性にある以上、「父に孝」だけが意味を持つのは明らかだ。女性が三界(さんがい)に家なしとなったのは、明治の世になってからなのである。 それもこれも強大な国家になること、世界の中に伍すること、さらには世界に進出することを目指すための方便だったわけだ。「教育勅語が教育活動の原理として圧倒的権威をもち、十五年戦争当時には神聖化されたのである(この項の一部は、NIPPONICA 2001を参照した)。 ところで、教育勅語は教育基本法などの精神にもとるものとして戦後、廃止されたはずである。また、男女同権も改めて謳われた。男女の平等参画社会も模索されている。 が、戦争に負けた日本は、経済重視に走り、今度は経済という形で戦争に勝つことを目指したわけである。戦争は当面放棄したものの、富国強兵と中央集権制度とは断固として明治以来の伝統を墨守したわけだ。 男は地方の津々浦々から掻き集められて、農村が寂れていく中で、産業が発達し、都会が地方の人々の雑踏の巷と化し、高度経済成長が続いたわけだ。 その中で、男性は外(経済の面での戦争)、女性は内という構図は、徹底して守られたわけである。子供は中学・高校と詰襟の学生服(どう見ても戦闘服の焼き直しだ)を着用することを強制され、整列することを強制され、並ぶ際には身長順であり、尊敬されるのは成績順である(性格などは一切、不問である)。この機能重視の環境は、いざ鎌倉(戦争)という姿勢の歴然たる現れでなくて、何だろう。 女性にも教育の機会はさすがに与えられるが、社会に出ると女性の活躍する場は限られているので、女性は早々と学習する意欲を減退させられ化粧と玉の輿願望に走らせられるようになる。会社に入っても御茶汲みしか仕事がなく、適齢期が来たら結婚するものと前提されてきた。 そうした社会であるからこそ、女性には家事を任せる。それは財布の紐を妻が握るというか父で女性の心を握っているので、家事の分担という地味な役割から抜け出せないのである。財布の紐を任せるかわりに家庭の一切は、お前だよ、その代わり、表向きのことには口を出させないよ。また、男は家事をしないよ、だって、財布の紐を握っているのは、お前じゃないか、お前が責任を持ってやれよ…というわけである。 余談だが、男尊女卑も、男が外で働くための方便なのだという面は、見ておいてもいいかもしれない。つまり、男は外で働く。これは日本では依然として形を変えた戦争であった(今も?)。さて、働く男は、ほぼ99%が一兵卒である。つまり、ひたすら働き蜂であり、命令されるだけの存在なのだ。 その男が威張れる場所というのは、大概の男にとっては家庭だけだったわけである。女性は家事をする。家事というのは仕事(戦争)に比して卑しい仕事である。そんなものをする奴等は睥睨されて当然、というわけである。 つまりは、戦時体制を維持するための方便として男尊女卑が特に明治以降、そして戦後も少なくとも80年代の半ばまでは、横行していた(というより奨励されていた)わけである。 さて、今、バブルが弾け、不況に突入し、グローバリゼーションの波が日本を襲っている。欧米の基準や価値観が、政府の統制など関係なく圧倒的な勢いで浸透している。 また、日本の企業も世界の中で生き延びることを意識せざるを得なくなっている。今や、能力があろうがなかろうが、男性だけで社会の仕事を受け持つのでは、競争に勝ち残れないという危機感が企業の側にはある。 いまさら男性優位の社会に居座っていては、戦いに勝てないのである。能力のある人材であれば、男性・女性を問わない、問うている余裕などないのだ。 また、女性を尊重し、社会において一定の役割を担うのは当然であるという欧米型価値観も、さすがに座視できない、というわけだ。 今後、家事というのは、担うべき人が担うことになるのだろう。予め女性がとか、弱い人がということではなく、家事に向く人、家事が好きな人、家事をやらざるを得ない人が受け持つようになるしかないわけである。 考えてみると、家事とは、人間の暮らしの上で根本であり、基本であり、出発点であり、生活のベースなのである。家事と外事を分けること自体、意味を持たない。これからの世の中では、仕事をする上で家事の形を、一番、合理的で能率的で且つ享楽的になるべく、追い求められていくのだろう。 家庭の中には、外に繋がる一切が実はあるのだ。男と女、大人と子供、老人と赤子、家、壁、柱、床、壁にかかる絵、窓、窓の外の木々。空気清浄機がその典型だ。空気清浄機は、空気という形で世界(の地球環境)とダイレクトに繋がっている。 エアコンの温度調整という営為の形で地球環境の異変と関わっている。 さらには食卓に並ぶ食べものの在り方を通して、世界の食糧事情と直結している。 身体の体調は、例えばアレルギーや糖尿病などを思うと、環境問題、衛生問題、医療や福祉、介護、そして大きくは生活の在り方と分かち難いのである。 このことは、たとえ、一人暮らしであっても、事情は同じなのだ。ただ、一人暮らしだと、すぐ傍で誰かに意見されないから、問題を先延ばししたり、見逃したり、無視したりしやすいというだけのことだ。 あなたは、なぜ、今、一人なのかを問い直すと、きっといろいろな事柄が見えてくるに違いない。 それが二人なら、あるいは三人なら、問題はもっと複雑になるだけのことだ。 家事のことから、話があれこれ広がってしまった。 ラジオでは、どんな話が交わされたんだろう、それが気になる…。 (02/03/21)
by at923ky
| 2005-01-22 00:54
| コラムエッセイ
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