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煽る文化の行く末は

 小生は結婚しているわけでも、まして子どもがいるわけでもない。だから、子どもについての教育論を語る土壌そのものが無い。
 それでも、子ども達の生活環境を見ていると、感じることがないわけではない。所詮は子育ての経験のない外野の感想に過ぎないのだろうが、メモ程度に綴ってみる。
 感じるのは、表題にもあるように煽る文化が小学生(あるいは未就学児童)にまで及んでいるということだ。ほんの一昔前、女子大生ブームだった頃がある。おにゃんこクラブが大人気だった頃と時期的に重なっているような気がする。
 オールナイターズというグループがあって、構成するメンバーは女子大生(女子短大生)だった。
 それが十年も経たか経ないと、80年代の終わりから90年代の初めは、今度は女子高生ブーム(?)がやってきた。女子高生の援助交際(援交)が先端の現象としてマスコミでクローズアップされた。マスコミに採り上げられたことで、また、援交が全国的な現象となった(あるいは、全国的な現象なのだということが分かった)。
 それが10年足らず続いたかと思うと、次は中学生がそうした社会風俗現象の一番の先端世代として扱われた。化粧品も、女子高生から中学生にまで売る圧力、つまりは買う圧力の下、一気に広まった。ブランド物(バッグや小物、アクセサリー類)も、中学生(女子)たちは、同じような圧力の下にあるのが常態化した。
 中学生の援交が当然のように話題になり、風俗での人気のターゲットも中学生の女の子に定まった。
 そんな中学生が脚光を浴びる中心だった時期はあっという間に過ぎ去った。この数年、特に去年から露骨となったのは、小学生の女の子が化粧や買い物や風俗の中心ターゲットになっていることだった。
 化粧品メーカーは、テレビで平気で小学生相手の化粧品を宣伝している。ブランドメーカーも、日本における販売の裾野の広がりを大歓迎しているようだ。
 当然ながら、常識的な形では購入が叶うはずもない。買えるものと買えないものとの差が歴然としてくる。我慢出来る子は少ない。我慢させる親も少ない。他の子が化粧してるよ、化粧するのは当たり前だよ、みんなにバカにされるよと言われると親も返事ができないらしい。
 それでも一応の歯止めに親がなっている場合もある。その場合でさえ、親の前ではしおらしく振る舞っても、さて、親の目の届かないところでの子どもの振る舞いとなると、信じるしか術(すべ)はないようだ。
 教室で、あるいは登校、特に放課後は、プレッシャーとの闘いらしい。街中を行く女の子を見ると、何かの雑誌の頁を切り抜いたかのようなファッションの子が見受けられる。
 顔は幼いのに、目元にアイラインが走っていたり、頬紅がまぶされていたり、持つ小物がいかにも高価な品物と分かるものだったり。
 そもそも、そうした子ども達の親が既に援交世代なのだ。高校生・中学生の頃から化粧をし、ブランド物の小物を持ち、最先端のデザインの衣装を羽織るのが当たり前だった世代になっているのだ。
 そして、社会というのは、派手な子どもが目立つ。そんな子どもがクラスに一人か二人居ると、もう、その圧力は周囲に瞬く間に感染する。波紋が広まる。自分も負けてはならないと意地でも派手なファッションへと走る。
 援交世代の次の世代は、セックスに関しても、罪の意識とか、体を大切にしなければとか、大人にどんな奴がいるかなど、何も考えないうちにカネに換算することを覚える。本当に思春期を迎えた頃には、深く深くカネと欲望の泥沼に嵌り込んでいる。喫煙と同じで、体に有害だと理解できる年齢になる頃には、習慣性が体に浸透し、もはや泥沼から足を抜くことはできなくなる。
 しかも、脚光を浴びる年齢は下へ下へと下がる一方だから、思春期になり体を、つまり自分を大切にすることの重要さに気づく頃には、市場価値は低落の一途を辿っている。カネの必要は年齢を重ねると、余計に高まるばかりだから、結局は、より劣悪な環境下で安い値段で体や心を売るしかなくなる。
 あるいは、自分に市場価値がなくなっているけれど、より若い子に値打ちがあることを知っているから、関係する市場で自分がブローカー的な役割を果たしてみたりする。
 言われるように現代は、映像の時代、露出の時代、話題の俎上に載ることが何よりも大切な時代なのである。他人に見える形で自分が露出していることが、何よりも大切なのだ。男の場合は、出世コースに乗ること(依然として、それが厳然としてあると思う。有名なブランドの大学や企業にコンタクトできるか否かが何より大切なのだ。履歴書や名刺に堂々と書き込める経歴が大切というわけだ)。
 内に秘めた情熱とか、簡単には表現できない人間的な魅力や優しさは、瞬間芸を求められる現代において、つまり、マイクやカメラを向けられた瞬間に瞬時に輝けるような才能が至上の才能とされる現代において、価値を持てない。カメラを向けられてすぐさま自分の能力や才能や輝きを示せないなら、見ている観客がイライラする。時間を無駄にされたように感じる。
 そう、大人の社会もイライラしている。成果は、直ちに数字となって表せないと、誰にも評価されない、実力は無いものと判断される、そんな情報化社会と言う名の短気で視野の狭い社会に生きている。そんな社会で神経を磨り減らされている。
 だから、テレビを見ても、結果が即座に出ないならチャンネルを切り替えるのみなのだ。
 見た瞬間、美しいかどうか、見た瞬間、優しいと感じられるかどうか、見た瞬間、身なりが立派かどうか、見た瞬間、体型が好ましいかどうか、見た瞬間、ビジュアル系かどうかが、何より大切なのである。
 結果重視、成果重視、短期での成功重視の社会。そこにモラルの入り込む余地などない。人の心がどうだとか、弱いものの犠牲の上に成り立っているとか、そんな<悠長な>議論など、何処か他所でやってくれ、というわけである。
 人間は商品である。カネに換算できる。換算できないものは、人間として値打ちがない。脱落者だという烙印を押される。 
 そんな中、癒し系だとか、和み系だとか、時代の潮流に抗うかのような動きもある。が、小生が見るところ、そういう系に入れるくらいなら、最初から苦労もしないし、悩みもしないのだ。化粧品メーカーを突端とする人間の表情や感情をもカネに換算しようとする圧力の波は、大多数の弱き者を呑み込んでいる。

[誤解して欲しくないのは、小生は化粧品メーカーを悪者扱いにしているわけではないことだ。分かりやすいから例として採り上げているだけである。例えばお菓子のメーカーも新しい味を開発・開拓し、新しい嗜好を大人にも子どもにも広げようとする。これも、善悪の両面から理解できるが、いずれにしても立派な煽る文化の事例である。他に飲料メーカー、ドラッグのメーカーなどなど、事例は無数にある。それぞれのメーカーや販売側は、個別には善意で動き、研究開発していると小生は理解している。]

 他の人がやっているから自分も、そうしないとダメだという弱き者、自分で自分をしっかり見詰められない者、流れに乗るしか能のない者、虐めを誰かがやっていて、それが教室の大勢なら、事の善悪など度外視して自分も加わる、そうしないと自分もやがて虐めのターゲットになると恐れる、自分が仲間外れにされる、そんな自分に自信がない弱き者達が、流行の洪水の犠牲者になっているのだ。
 そんな渦中にある者達に、癒しだとか和みだとか言ったところで、馬耳東風になるしかないのである。
 今、人間をトコトン商品化する圧力の波の先端は小学校の高学年になっているようだが、早晩、低学年にターゲットが絞られるのは、目に見えているような気がする。やがては未就学児童さえも、化粧やブランド物を所有する圧力の潮流に飲み込まれるのだろう。
 いや、幼児のうちから、子供向けファッション雑誌を参考にした小奇麗な衣装を纏わせて悦に行っている。既に親たちが子育ての初期の段階から、身心共の商品化の社会の予備軍に子どもを仕立て上げているのだ(よく言えば、子どものうちから商品化社会に対する免疫を与えているとも理解可能かもしれないが、可能性の話に過ぎない)。
 人間とは何か、などといった悠長な問いなど、通用しない世界。そんな暇もないうちに、時代の波が子ども達を飲み込んでいく。
 親たちも、子どもを大切にしている。この大切というのは、一応は子どもに意見をするが、結局は、子どもの言いなりになること、それが子どもを大切にすることと実際には等価であること。つまりは市場を子どもに広げたいメーカー側の思惑に合致すること、それは大人の社会の論理が子どもにおいて貫徹することに他ならない。
 煽る文化に終わりがあるとは思えない。一旦、煽りの情念に火が点いた以上は、行き着くところまで行くしかないのかもしれない。が、小生には、一体、どうなった状態が行き着く先なのか、まるで分からないのだ。
 子を持つ親たちは、このままでいいと思っているのだろうか。子のない小生などが何を言っても、説得力などないことは分かっている。小生などが心配しても何の意味もないことも痛く、感じている。
 でも、街中をちょっと歩くと、明るそうな笑顔の陰に、悲鳴を上げる無数の子ども達の存在を感じる。何処かのスモークガラスの車の中から、何処かの瀟洒な高級マンションのベランダ越しの窓から、校庭の隅っこから、何処かのビルの谷間の一角から。
 こんなことを書きながら、溜め息をつく。所詮は、外野でのぼやきにしか過ぎないのだと感じて。

 


                                   (03/08/21)
by at923ky | 2005-01-14 23:29 | コラムエッセイ


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