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都心の新風景

 東京の都心がこの数年、凄まじい勢いで変貌を遂げている。バブルの崩壊で土地の値段が下がり、再開発の勢いがここに来て一気に花開いているという状況なのだろう。
 中には、六本木ヒルズのようにバブル前から計画され、それが今になって形になったものもある。時期がたまたまほぼ重なったということなのだろうか。
 発掘調査が終わった汐留地区や丸の内(丸ビル)、新幹線の到着に伴う品川駅東口、他にも大崎もほんの数年前とはかなり様子が違っているし、まだまだ変わりつつある。大井地区も大規模な工事が続行されている。
 そうでなくとも高層ビルは都心の方々で林立しつつある。面白いのは、大規模開発そして超高層のビルを建てる代わりに敷地には庭園などが設けられるし、ビルの中、乃至は同じ敷地内に高層のマンションも建てられていることだ。
 当然のように、新しいビルが建てば古いビルや家屋は姿を消していく。例えば、汐留地区の再開発で、古い家屋が消えつつある様子を見てみよう:

 品川駅の東口も大変貌を遂げつつある。品川インターシティはビジネスビル群
だが、近くに品川セントラルガーデンが出現し、ちょっとした話題を呼んでいる:




 小生には品川駅は田町駅と並んで懐かしい駅である。前にお世話になっていた会社が芝浦の先の海岸という町にあり、小生の居住するマンションが高輪にあって、会社へはオートバイで通う時もあったが、歩きやバスを使うことも多かった。
 その際、田町駅へ出てそこからまたバスに乗って、あるいは歩いて会社へ向った。
 あるいは、会社からの行き帰り、田町駅と品川駅の間にある地下歩道を通って歩いて通ったこともしばしばである。時には品川駅で会社の同僚と飲むと、小生は駅から高輪の山を越える形で自宅へ帰った。
 当時(特に80年代前半)は、山手線を越えた海側は、湾岸地区だったり港湾地区だったりして、まだそうした風景に慣れない者には、何か場末の感じ、荒涼たる雰囲気が濃厚に漂っているように感じられた。巨大なコンテナーを引いたトラックが我が物顔に高速を、あるいは高速の下の一般道を走り回る。女性が一人で歩いている風景など、めったに見られず、たまに見かけると大丈夫なのか、と心配になったりした。
 小生の通う会社が輸出代行業を営む会社で、そうした港湾関係の仕事に携わる人々の顔が見えるようになると、海岸の風景にも人間味を感じられるようになったのだったが、それでも、スーツ姿のビジネスマンらの似合う町ではなかった。

 それが、『品川セントラルガーデン』が出現し、スカイウエイが出来、「品川の自然をテーマにした7つのフォリー(造形物)と4つの水景が設けられており都心のオフィスエリアでは最大級の緑ゆたかなスペース」となったりする!
 洒落た街の出現。しかし、改革の進展は、強いものと弱いものの二極分化が促進されるという。相当程度の年収なり地位なりがある層と、日々を慎ましく生きるのが相応しいような、年収がせいぜい高くても三百万円か、それより下の層。
 小生は、後者にばっちり嵌っている。恐らくは年に一回も新しく成った街やビルを拝めるかどうかだろう。ほとんど無縁の街である。溜め息で眺めるしかない街でありつづけるのだろう。着古した服や履き潰し寸前の靴の姿の小生には敷居の高い街でありつづけるのだろう。
 まあ、勝手にやってくれだ。
 そういえば、小生の現に居住する町も、ドンドン変わっている。小生が住み始めた90年頃には、築数十年以上の家々があちこちにあって、台風が来たら、この家、倒れるぞと思っていた家々が、この数年でドンドン建て替えられていった。
 我が町が一変しつつある。
 それはそれでいいのだろうが、その一方、町の表からは消えていった風景も、想像以上にあるのだと思う。或る日、通りかかると、ある一角が更地になっている。あれ? 何が建っていたっけと思い起こそうとしても、思い出せない。そのうちに、さらにしばらくして来ると、真新しいビルが入居を待つばかりとなっている。
 古い住人は何処へ行ったのだろうか。オーナーとしてビルの一角に居住しているのか。それとも、何処かへ去り、ビルのオーナーは全く別人なのか。
 とにかく風景は昨日とは違う。馴染んできた町の表情はない。暖簾の店も、ビルのテナントとして数階の一角を占めていて、階段かエレベーターで向わないといけない。
 それはそれでいいのだけれど、敷居が高いのは間違いない。ビルが綺麗だと、着古した服装で気軽には入れない。
 別に意図的に締め出されるわけじゃないのだろうが、一度か二度、訪れて、後はもう無縁の街に、ビルになってしまう。行き場がない。どこか古い風情を残した、気さくな雰囲気の一階建てか二階建ての古い建物の中の店を探し回る。そんな店も消滅は時間の問題なのだ。
 近くの小さな書店も消えてコンビニになってしまった。年輩の者が気軽に立ち寄る店がドンドン消えて行く。
 一部の恵まれた、あるいは力やカネのある人々と、その日暮らしに近い小生のような人々との分離が、股裂き状態になり、二極分化していく。低い日の当らない層をうろつく小生。いつまで経っても日が当りそうにない未来。
 これが日本の未来図なのだろうか。綺麗に成り代わった街の何処かに小生の息の付ける余地は残っているのだろうか…。
 でも、そんな小さな呟きなど、誰も相手にしないのだろうね。
                             (03/10/17)
by at923ky | 2005-07-04 22:31 | コラムエッセイ


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