仄聞するところによると、今月から東京都青少年育成条例の改正に伴い、有害図書の扱い方について大きく様変わりするとか。
「条例では、出版社側が独自に成人マークをつけている雑誌などに対し、包装への「努力」が明記された」ことにより、出版業界の自主規制の形で、シールを貼るなどして出版業界は対応に大童のようである。 成人向けの出版物だけにシールを貼ればいいかというと、そうはいかない。今、雑誌などの売り上げで大きな割合を占めているコンビニ業界。この業界の意向が大きく出版界を左右している。「コンビニや取次会社が『シールを張ってない雑誌は扱わない』と判断したら、出版社はやるしかない」とか。 【Publicity】:「なぜこんなに静かなのか?」 ~不健全だよ改正都条例(その2) 「透明のシールで開かない様にされた雑誌、これは立ち読み防止ではありません。この措置は、出版社が「成人向け」と判断した雑誌の中身を青少年が自由に見られなくしたもの」なのだとか。 つまり、従来のビニ本(ビニール本)とは性格を異にするものだ。法には抵触しないが、わいせつ性がある図書を透明のビニール袋で覆って、所定の書店などで売るのがビニ本。 が、今回の都青少年育成条例の改正に伴ってのシール本は、最初からわいせつ性があるかどうかよりも、都の条例に触れるかどうかを(多くはコンビニ業界の意向が)予防的に判断し、その上で、コンビニの店頭に置く。 都から「不健全図書」と指定されないがため、ひたすら守りに入っているというわけだ。 確かに、コンビニ店に限らないが、書店の雑誌コーナーなどには、ヘアーヌード写真の掲載された雑誌が、ビニールもシールも貼らないで、野放しの状態で置かれている。 それを子供たちが自由に見ることができる。我が子が、そんなものを見たら、そしてそれがゆえに良からぬ行動に走ったら、困る。 今までの野放し状態が異常だったとも言えないことはない。 が、しかし、そもそも今という時代は、猥褻画像だったら、ネットで幾らでも見ることができる。あまりに安易に、しかも、予想もしない形で見れるので、その気がなかったのに、そうしたサイトを開いてしまい、ドンドン猥褻画像の連鎖に嵌ってしまったことが、小生自身、幾度もある。 そうした画像というのは、下手なビニ本より凄い。裏ビデオなど買わなくなって、凄まじい画像が自由に見れるし、手に入る。ビニ本より凄いのは、音声などが聴けたりする要素があったりするからだ。 それに、別に猥褻ということでなくても、何処かの素人さん(それを商売にしているわけじゃない、一般の方)が、日常を公開するという触れ込みで、時にヌード写真などを公開しているサイトも数多くある。とにかく、見飽きない。見尽くすなんて、不可能だ(った)。 こうした状況で、有害な図書を追放乃至隔離・分別するのは、時代錯誤とも思えなくもない。そうした発想というのは、健全さを標榜する父兄や当局の、どこか的を外した頓珍漢な、そして安易な動きではないかと思う。 ネットにおいても、そのうち、猥褻(と当局が判断し、あるいは、判断されることを懸念する当事者が)ネットにおいても、閲覧やアクセスを妨げるような動きが始まるのだろう(始まっているのかもしれない)。 それでも、そもそも何が有害図書というのは、小生にはよく分からない。 何が猥褻かは、各人でまるで対象は違う。 性的なことというのは、かなりに嗜好性があって、女子高生フェチもいれば、幼児フェチもいれば、太った肉体が好きだという人もいれば、中年に魅力を感じるひともいれば、老年の肉体に性的魅力を覚える人もいる。 ヌードがいいとは思うけれど、ナースやら婦人警官やら銀行員などの、所謂制服モノが好きな人もいる(小生は運送業に携わっているという仕事柄か、最近、婦人警官を町で見かけると、何故かちょっとだけ職質など、受けてみたいと思ったりする。あのひたむきな仕事への姿勢。正義感。制服。制帽。パンプス。眩しい! 密室の中、二人の婦人警官に挟まれて、あれこれプライベートなことを訊ねられたりしたら、あられもないことまで応えてしまいそう…。が、これは内緒 の話だ)。 あるいは、太股とか二の腕とか、顔(頬やアゴや項や)、あるいは肩、爪先、踵、背中、御尻、手(指)、胸(何もバストに限らない、胸の谷間とか、鎖骨とか)などと、性的妄想の源泉となりうるパーツは、人により、それぞれだ。 時に、多少の着衣があったほうが、妄想を掻き立てられてグッドだったりする。そう、和服(浴衣)など、胸の合わせ目が、しどけないより、ピッタリとされていたほうが、我が手で襟元を開いてやる! なんて思えて、妙に色っぽかったりする。 まあ、そんな話は尽きない。 思えば、若い頃(に限らないが、今回の改正の対象は青少年となっているので、ここでは若い頃)は、特に思春期の頃など、異性に関心を持ち始めたら、異性に関する事なら、どんなことでも知りたかったし、関連する図書どころか、凡そ関係のない本であっても、何か異性を思わせるよな記述があったら、それでもう、ビビビと来るものではなかったか。 ガキの頃に、事典を開き、医学的記述などを渉猟し、(異性の)肉体の構造を興味津々で読み漁ったりしたものではないか。「刺青」の項を事典で探し当て、全身隈なく刻み込まれた刺青に感嘆の念を抱いたものだった(正確に言うと、刺青の模様の美しさよりも、刺青を施された女体あるいは男の体の肉体の生々しさに、度し難い性的興奮を覚えたのだった)。 終いには、立つ、触る、濡れる、息、指、足、などなどの単語を見聞きするだけで、妄想の念は蠢き回るのだ。 現在も東京都知事であらせられる石原慎太郎氏は、小説「太陽の季節」で1955年度の芥川賞を受賞され、華々しい文壇デビューを果たされた。 翌年には、日活で長門裕之・南田洋子の主演で映画化され、それが石原裕次郎という稀代のスターを生むことにもなった。 小生は、この小説を初めて読んだのは、中学生の頃だった。但し、小生は、文学熱はまるでない人間。読んだのは、ひたすら、あの障子破りのシーンなどに惹かれてのことである。 そうしたシーンがあるなら、何でも良かった。石坂洋次郎の、恐らくは青春文学の範疇に収められがちな本も、小生の目は、キスシーンなどをひたすらに追って読み浸った。文学的感懐など、抱く余裕などなかった。 この「太陽の季節」など、文学的判断は留保しておくが、人によっては不健全極まりない図書だと判断されるかもしれない。彼の小説が嫌いな人には、ただ、えげつない記述が話題の小説ということになりかねない。この本を漫画化されたりしたら、間違いなくシールが貼られる運命にあると思う(それとも、都知事の威光で対象外となるのかな。それどころか、児童への都選択の推薦書になったりして)。 法律というものは、一人歩きするものだと思う。当局が動かなくたって、法律があるというだけで、関連する業界が萎縮する。シールを疑われかねない図書に貼る作業の量と経費の膨大さは度外視しても、出版界の萎縮振りは後で振り返ったら過剰ということになるかもしれない。 しかし、脅しの効果は覿面ということなのだろうか。改正の目的は果たしたということなのだろうか。それで、東京都の青少年は、健全化するのだろうか。この法律改正の結果の検証はされるのだろうか。 国旗・国歌法案が成立した際、強制はしないという、当時の与党幹事長の発言にも関わらず、法律は一人歩きし、東京都では、都の意向(威光。予算や人事権)の及ぶところは、ドンドン、強制されている。 国旗・国歌をどう思うと本人の勝手であり、素晴らしいと思うのは構わないが、国家(都、当局)が強制するとなると、問題だと思う。 不健全な図書の定義として、そのうちに、国旗のマークの入っていない本・雑誌は不健全だということになりかねないのではないか。国歌を朝礼の際に歌わない出版社は、出版業に携わってはいけない、ということになりかねないのではないか。 そのうち、シールには日の丸のマークを入れること、という暗黙のルールが一人歩きしたりして。CDあるいはDVDも、国歌の斉唱が冒頭に録音されていないと販売差し止めということになるのではないか(業界の自主規制の形で)。 有害という定義は、誰がするのだろう。当局? 怖いのは自主規制だろう。予防線を張り始めたら切りがない。 石原都知事は、仮にも芥川賞作家だったのではないか。表現の自由は、思想・信条の自由は何よりも尊重されるべきことを誰よりも知る立場にあったはずではないか。 それが年老いてくると、老婆心が深まり、世を憂え、自分の憂国の情ばかりが高まり、他人や子供たちの自由闊達な精神の発露より、管理・取締りを優先するようになる。年を取るとは、他人を自分の頑迷固陋な信条で他人を縛りたくなる傾向が昂じることなのか。 何か、勘違いしていないか、石原都知事さん。 (04/07/11)
by at923ky
| 2005-05-21 23:25
| コラムエッセイ
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