日本は最近はほんの少し喫煙事情が窮屈になりつつあるといっても、依然として喫煙天国だと思っていいだろう。愛煙家にとっては、少なくとも先進国の中では天国なのである。
昨年10月1日に千代田区において歩き煙草(歩行喫煙)を罰する条例が施行された。罰金も課される。車中での喫煙は構わないが、車外へポイ捨てしたなら罰則の対象となる。 実際、小生は仕事柄、車で都内を走り回っているが、車からのポイ捨ての多いこと。道路は灰皿じゃない! と言いたくなる。 海の彼方の欧州連合(EU)では、煙草のパッケージに「喫煙は(人を)殺す」の表示を求める法令が実施されるという。既にそこまで対煙草対策が進んでいる。 愛煙家の一部には、マナー向上に努めているというが、マナー向上というのは、自分を律すればいいというだけではなく、喫煙する仲間をも制するものでないと、自分はちゃんとやっているから文句ないだろうという、単なるアリバイ、言い逃れに過ぎない。 煙草を吸わない人と同席する際、「煙草を吸ってもいいですか?」と尋ねて、OKがあったら吸うようにしている、などと澄まして語る人もいる。 が、ここは日本である。煙草を吸っていいですかと聞かれて、正直に嫌ですとかダメですと言える人間がどれほどいるものか。仕事の都合、職場の上下関係、男女の柵(しがらみ)などがあって、それに曖昧を以って良しとする、無駄な軋轢を避ける、そんな倫理が土壌としてあることを多くの喫煙する大人も分かっているはずだ。 つい先日、アメリカでは映画などで出演者が煙草を吸う場面を見る頻度と子供の喫煙との相関を示すような研究結果が示されて話題になっていた。 小生も昔は煙草を吸っていた。大人になったら煙草を吸う。高校時代は気が小さい小生は、卒業した直後、近所の喫茶店に友人らと集まった際、初めて煙草を吸った記憶がある。コーヒーを啜りながら煙草を燻らすのが、ささやかな夢であり、大人の証明とまではいかないとしても、少なくとも第一歩だとは感じていた。 一旦、吸い始めると、もう手放せない。大学時代はずっと喫煙の習慣にどっぷり浸っていた。紫煙という言葉、あるいはその雰囲気や情景に苦味と大人の味を感じていたかのようだった。仕事(アルバイト)の後の一服ほどにうまいものはないのだ。ホッとする一時でもある。 大人の証明(大人への第一歩)としての煙草。映画やドラマなどで恰好のいい主人公は、必ずと言っていいほど煙草を吸う。何かことを起こす時、高ぶりがちな神経を休めるために、あるいは持て余す時間を潰すために煙草を吸う、何本も。やがて路上に踏みつけにされた吸殻が溜まっていく。 さて、いざ、決行の時が来た! 最後の吸い掛けの煙草を足元に投げつけ、革の靴で殊更に踏み潰して、電柱の影か何処かのビルの透き間から出て行って、ことを仕出かす。 仕事をやり遂げると、その仕事の苦味を煙草の苦味の中に共鳴させるかのように、あるいはやり遂げた充実感を喫煙特有の恍惚感の中で酩酊させるために煙草を吸う。 その主役達の恰好がたまらないのである。 そんな恰好のいい主役のイメージが脳裏に深く刻まれている。 あるいは父親を含めて、既に社会で働く男達と酒や煙草とはきっても切れないかのような関係性の中にある。親父や大人の体や服から漂う煙草の匂い。不快なのだけれど、何処か頼りがいがあるような。 さて、環境問題では京都議定書から離脱するような後ろ向きのアメリカなのだが、しかし、煙草に関しては環境の厳しい国である。早くから煙草の有害性が国レベルで認識され対策も打たれてきた。 下記のサイトを見て欲しい: 「連邦食品医薬品局(FDA)のたばこ規制について アメリカ合衆国」 「1996年8月23日、米国クリントン大統領は「子供と青少年を守るために紙巻たばこと無煙たばこの販売・流通を規制する規則」を大統領命令として発表し」ている。自動販売機での販売の原則禁止や学校の近くでの販売の禁止、看板(広告)も白黒の地味なものに限られる、煙草の有害性の啓蒙活動の促進etc.、多彩な規制のための規則が施行されている。 そもそも欧米では煙草は日本の倍ほどの値段である。青少年が気軽には購入できない値段なのである。 過日、煙草の増税がまたまた決まった。といっても、一本辺り、1円である。これは税収確保のための増税であって、別に日本の人を煙草の有害な影響から守ろうという意図に基づくものではない。 よく、煙草の税収は貴重な税源だ、だから煙草(喫煙)を制限したら大変だ、俺達喫煙者は国庫を潤しているんだ、という議論を目にすることがあるが、これは笑止の議論である。実際には煙草税より遥かに大きなコストが喫煙に関連して要している。肺癌などの治療のための膨大な医療費はもとより(煙草に由来する死亡は日本だけで年間数万人、当然闘病者の数はその数倍以上に上る)、道路の清掃費用(道路が汚れる原因の最大の一つが煙草にある)、煙草が原因での火事(自宅はもとより、山火事など)、そうした無駄に使われる費用を計算したら今の煙草税など、まるで足りない。 そう、煙草税は日本では安過ぎるのである。では幾らにすべきかは、専門家の手を借りたいが、一本辺り10円増やす程度でも安いのではないだろうか。 そのことのメリットは大きい。青少年の安易な喫煙の減少(なくなることはないだろう。売春や犯罪で金を稼いで吸う奴は吸いつづけるだろう)、肺癌などの治療費の大幅な削減、火の不始末(寝煙草)による火事に関連するコストの大幅な削減、町の美化、メリットはただならぬものがあると期待できるのだ。 それに、日本もやっと喫煙に関して(つまり、人間の体への配慮や人権など)欧米にほんの少し近づいたと胸が張れるかもしれない。 ところで、先年、アメリカで驚くべき判決が下されて話題になった。タバコ会社を相手取って起こされた訴訟は42兆円もの賠償金が命じられたのだ。判決は既に確定している。 では、それで煙草会社は倒産したか。さにあらずである。確かにアメリカ国内では、どちらにしても煙草産業は尻すぼみであることは間違いない。 が、そこはアメリカは知恵者である。賠償金を数十年に渡って煙草に上乗せする(ここまでは分かる)だけではなく、煙草を輸出することで賠償金を賄おうとしているのだ。 つまり、煙草に補助金を与えることで安い価格で海外に輸出しているのである。アメリカ国家が煙草の輸出を奨励しているのである。 そのターゲットは後進国と呼ばれる国々である。経済事情、治安情勢が悪かったり、日本のように喫煙に寛容(つまり人権意識の薄い)国に輸出して外貨を稼ぎ、賠償金の支払いによる損失の穴埋めをしているわけである。日本はアメリカの煙草産業の片棒を担いでいることに結果としてなる。 街中を見ると目立つところに、あるいは何かのイベントの際に、巨大な煙草の広告を見ることが出来る。真冬でも水着を来た若い男女が海辺でスポーツに勤しむ、なのに何故か煙草を吸っている。軽いから、ニコチン、タールがカットされているから、だとか言い募って(今後、「ライト」という表現が認められなくなるとか)。 つまりは、アメリカは自分の国の人間は健康が大事と厳しく対処しながら、無防備ないし無自覚な日本を筆頭とする海外へは有害な嗜好物を際限もなく売り捌いているのである。 これこそは、現代版アヘン戦争と言わずして何だろうか。 アヘン戦争は、学校で習っただろうから記憶の片隅に残っているだろう。イギリスが中国(清朝)にアヘン(麻薬)を売りつけ(密輸)、その結果、中国にアヘン中毒患者が蔓延した(200万人にも上るという)。実情に驚いた中国政府が、禁令で対抗したが、当時の中国政府(官僚機構)は腐敗の極にあり、効果がなかった。 イギリスにとっては巨額の外貨の獲得に繋がったが、逆に言うと、中国からすると膨大な自国のカネの流出に他ならない。結果として疲弊した中国が泥沼にまで落ちていくことになる。 ついに中国は、アヘンの没収や焼却で対抗することになる。カネに目が眩んでいたイギリス政府は、対中国戦争に踏み切るに至るのである。やがて国力がどん底状態にあった中国はイギリスに屈し、南京条約(1842年)を結ぶのだ。中国は主権を失ったのである。また、巨額の賠償金(膨大な戦費)を支払う義務さえ負った。 中国は日本にとっては、恐らくは紀元前の昔から遥かな先進国だった。常に文化や政治の見本でありお手本だった。その中国の被った惨状は、幕末の日本に与えた衝撃は、想像を絶するものがあったに違いない。あの中国が毛唐の属国になってしまった! 当時の日本の先覚者は、欧米列強の植民地支配の現状の悲惨さをつぶさに聞き、さらに実情を調べるため西南アジアにまで調査団を派遣している。危機感が尋常ではなかったのだ。 さて、今、煙草についても同じような構図がある。さすがに昔のようなあからさまな植民地支配とはならないがアメリカに頭が上がらない以上は、実質的に植民地状態にあると感じる人もいるのではないか。煙草はその象徴に過ぎないのだ。 煙草の販売に制約を設けられて困るのは、煙草への認識を正確に持ってもらって困るのは、日本の煙草関係産業・業界以上にアメリカなのである。何しろ、外貨で40兆円以上の賠償金をこれからも穴埋めし続けなければならないのだから。 その意味で、日本は天国なのだ。アメリカにとって。 原題:「現代のアヘン戦争が日本を舞台に」(03/02/ 下旬頃、作成) (BSE問題で、問題を生じる可能性が皆無とは言い切れない牛の肉がアメリカの圧力で、いよいよ輸入を余儀なくされている。煙草もアメリカは国内では厳しいが、日本や中国などへは平気で輸出している。 05/04/28 up時、追記)
by at923ky
| 2005-04-28 11:46
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